雇用契約書と就業ルールはいつ作る?|採用前に決める勤務・残業・試用期間|勤務医から開業医まで、歯科医師の働き方・臨床技術・開業準備・医院経営を学べる総合メディア|歯科成功大全

雇用契約書と就業ルールはいつ作る?|採用前に決める勤務・残業・試用期間

雇用契約書や就業ルールは、スタッフが入職してから作ればよいものではありません。求人を出す時点で勤務時間や給与、休日を決めていなければ、媒体ごと、応募者ごとに説明が変わります。内定を出した後に条件を修正すると、「最初の話と違う」という不信を生み、開院前の辞退や早期退職につながります。

一方、インターネットで見つけたひな型を医院名だけ変えて使うのも危険です。診療準備、朝礼、着替え、昼休みの電話、片付け、研修が労働時間としてどう扱われるかは、実際の指示と運用で判断されます。書類に「自主的」と書くだけで、現場の指示が消えるわけではありません。

この記事では、採用前、契約時、開院後の順に、歯科医院が決めるべき労働条件とルールを整理します。個別事情で法的判断は変わるため、最終的な規程や対応は社会保険労務士、労働局などへ確認することを前提に、院長が現場の実態を言葉にするための実務として考えます。

開業準備の全体像:歯科医院の開業準備は何から始める?で、この記事を含む開業準備全体の進め方を確認できます。

募集を始める前に勤務の実態を設計する

診療時間ではなく出退勤時刻を決める

患者さんを受け付ける診療時間と、スタッフの労働時間は同じではありません。始業前には着替え、清掃、器材準備、朝礼があり、診療後には片付け、滅菌、入金確認、記録があります。誰が、何分前から、どの業務をするかを一日の時系列にし、始業と終業を現実的に設定します。

「診療終了後すぐ退勤」と見込んで給与計算をすると、開院後に残業が常態化します。模擬診療で最終患者の退室から施錠までを測り、職種別の作業を確認してください。特定の一人しかできない締め作業があれば、欠勤時の代替も必要です。診療枠を決める前に、終業までに完了できる予約設計へ戻します。

労働時間の法定上限には原則があり、事業場の規模や業種に関する特例、変形労働時間制などは要件が複雑です。「小さな診療所だから週44時間でよい」と一部だけを捉えず、常時使用する労働者数、対象者、就業規則との整合を含め、開院地域を管轄する窓口や専門家へ確認します。

休憩と休日を予約表から守れる形にする

休憩時間を契約書に書いても、電話当番や急患対応を命じれば自由に利用できません。昼休みの電話を誰が取るか、留守番電話に切り替えるか、当番制にする場合の時間管理を決めます。院内にいることだけを求め、実際には対応を待たせる状態も含めて、休憩として成立する運用かを確認してください。

休日は、固定休、シフト休、祝日の扱い、振替診療日、年末年始を具体化します。「週休二日」と「完全週休二日」は応募者の受け取り方が違うため、曜日と年間の考え方を示します。有給休暇は法令に基づく制度であり、希望を出す手続、取得単位、管理担当を定めますが、権利を不当に狭める独自ルールにはできません。

開院初年度は、内覧会、研修、棚卸し、休日診療など通常と違う日程が発生します。それらを後から休日出勤として依頼するのではなく、年間予定に置いて出勤の要否を整理します。休日を事前に振り替える場合と、休日労働の後に代休を与える場合では扱いが異なり、代休を与えても法定休日労働の割増賃金が当然に不要になるわけではありません。法定休日か所定休日かも含めて事前に確認し、参加を実質的に義務付ける行事を無給の「自由参加」にしないことが大切です。

残業を個人の申告だけに任せない

時間外労働をさせる可能性があるなら、法定労働時間を超える前に36協定の締結と届出など必要な手続を確認します。協定を出したから自由に残業させられるわけではなく、上限、健康確保、割増賃金、就業規則や契約上の根拠を整える必要があります。開院日に間に合わないという事情も例外ではありません。

勤怠は、タイムカードやシステムで始業と終業を客観的に把握します。院長が「残業を頼んでいない」と考えていても、終業後の片付け量が多く、管理者が見ているのに黙認していれば問題になります。申請の有無だけで労働時間を切り捨てず、申請と打刻に差がある日の理由を確認します。

残業削減は、スタッフに早く帰るよう声をかけるだけでは進みません。最終予約の内容、診療の延長、会計入力の遅れ、滅菌量、終礼の長さを分けて測ります。週ごとに原因上位を一つ直し、削減できない業務は診療枠や人員を見直します。適正な記録があるからこそ、改善の効果も分かります。

開院前一週間は、実際の出勤予定で模擬勤務を行うとずれを発見できます。始業から最初の患者受入れまで、昼休み前後、最終患者から施錠までを通し、打刻する時刻と指示された業務を照合します。院長だけが早く来て準備する前提や、受付だけが休憩中も電話を取る前提が見つかれば、求人条件を確定する前に直せます。

内定から入職までに書面と説明をそろえる

労働条件通知書の必須事項を漏らさない

労働契約を結ぶ際には、契約期間、就業場所、業務、始業終業、休憩、休日、賃金、退職など、法令上明示すべき事項があります。2024年4月からは、就業場所と業務の変更の範囲、有期契約の更新上限など追加された項目にも注意が必要です。さらに2026年10月1日以降、パートタイム・有期雇用労働者には、通常の労働者との待遇差の内容・理由等について説明を求められる旨の明示が必要になります。古いひな型をそのまま使わず、厚生労働省の最新様式を確認します。

労働条件通知書は使用者が条件を明示する書面、雇用契約書は双方の合意を確認する書面として使われることが一般的です。二つを兼ねた書式も可能ですが、署名があれば内容がすべて適法になるわけではありません。法令や就業規則を下回る条件、実態と違う条件は、署名だけでは解決しません。

業務内容は「歯科医院業務全般」と広く書いて終えず、主な仕事を職種別に示します。ただし、将来の配置変更があるなら、その範囲も現実に合わせます。歯科衛生士など資格職の業務は、関係法令、歯科医師の指示、本人の技能、院内体制を踏まえ、受付や清掃を含む付随業務とのバランスも面接段階で説明します。

試用期間の目的と判定日を決める

試用期間は、気軽に雇用を終了できるお試し期間ではありません。本採用拒否には、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が求められます。試用期間の長さ、試用中の賃金や手当、本採用後に変わる条件、判断日、確認項目を採用前に示します。

評価項目は、「医院に合う」「積極性が足りない」といった主観ではなく、勤怠、指示された確認手順、記録、患者対応、報告、習得状況など観察できる内容にします。問題があれば日時と事実を記録し、早い段階で本人に伝え、改善に必要な教育や支援を行います。試用期間の終了直前まで伝えない運用は避けます。

欠勤が続く、能力が想定と違う、他者との摩擦がある場合も、理由を決めつけず本人の説明を聞きます。病気、障害、妊娠など配慮が必要な事情が関係することもあります。採用取消し、本採用拒否、解雇、雇止めは法的評価が異なるため、独断で通知せず、事実を整理して専門家へ相談してください。

内定後に変わった条件を放置しない

工事の遅れで開院日が変わる、診療時間を短縮する、配属先が変わることはあり得ます。しかし医院の事情だからと一方的に扱わず、影響を受ける職員へ早く説明します。入職日、研修日、賃金開始日、勤務場所を確認し、合意した変更は書面にします。

開院前研修を行う場合は、日時、内容、場所、持ち物だけでなく、賃金と交通費、勤怠記録を案内します。制服合わせや写真撮影、院内清掃も、参加を求めて業務として行うなら時間管理が必要です。「みんな来るから」という同調圧力で無給参加を求めないようにします。

採用者から辞退が出たときは、責任追及より条件説明のどこに不一致があったかを振り返ります。求人票の更新漏れ、回答の遅さ、研修予定の後出しなど、次回に直せる要因を記録します。応募者の個人情報は採用目的の範囲で扱い、不採用・辞退後の保管期間と廃棄方法も決めます。

就業ルールを開院後も機能させる

就業規則と日常マニュアルを分ける

就業規則には、労働時間、賃金、退職、服務規律など労働条件と職場秩序の基本を置きます。常時10人以上の労働者を使用する事業場では作成と届出などの義務があるため、人数の数え方も含めて確認が必要です。10人未満でも、基準を統一するため作成する意義はあります。

一方、電話の受け方、器材の場所、予約変更、清掃手順などは業務マニュアルで管理します。細かな作業をすべて就業規則に入れると、改善のたびに扱いが難しくなります。法的なルール、雇用上のルール、診療業務の手順を分け、どこに何が書いてあるかを一覧にします。

規程を作っただけで周知しなければ機能しません。スタッフが必要なときに確認できる場所に置き、入職研修で読み方を説明します。改定時には変更点、開始日、相談先を伝えます。不利益変更に当たる可能性がある内容は、合理性や手続の検討が必要なため、単に新しい版へ差し替えないでください。

注意指導の手順を院長の感情から切り離す

遅刻、無断欠勤、患者情報の不適切な取扱い、手順違反が起きたとき、忙しい診療室で感情的に叱ると事実確認ができません。患者さんや他のスタッフの前を避け、本人から事情を聞き、何が起きたか、どのルールに関係するか、次に求める行動を整理します。

注意指導の記録には、日時、事実、本人の説明、医院の指導、支援策、確認日を残します。伝聞や性格評価を混ぜず、業務上必要な範囲で保管します。同じ事象に対する対応が人によって変わると不公平感が生じるため、管理者間で手順を共有します。

懲戒処分は、就業規則上の根拠や処分の相当性など慎重な検討が必要です。院長が腹を立てたから即日処分するものではありません。患者安全に関わる場合はまず業務を止めて安全を確保し、その後の雇用対応は分けて考えます。重大事案ほど専門家へ早く相談します。

月一回、実態とのずれを点検する

開院後は、打刻と診療時間の差、休憩取得、残業理由、有給休暇、欠勤、研修時間を月単位で確認します。書面上の勤務と実態が違えば、スタッフの意識の問題にせず、予約枠、人員、役割分担を見直します。給与計算後では修正が遅いため、勤怠締め日の前に確認日を設けます。

相談窓口も形だけにしません。院長へ直接言いにくい労務、ハラスメント、健康上の相談を誰が受けるか、秘密をどこまで守り、必要な対応へどうつなぐかを案内します。相談したことを理由に不利益な扱いをしないことを明確にし、記録へのアクセスを限定します。

制度改正、最低賃金の改定、スタッフ数の増加、診療時間変更、分院開設は見直しの契機です。少なくとも年一回は就業規則、雇用契約書、求人票、実際の勤怠を並べて点検します。契約書を守らせるだけでなく、医院自身が約束を守れているかを見ることが信頼につながります。

点検結果は、規程の文言だけでなく給与計算とシフトへ反映します。例えば休憩の記録はあるのに毎日呼び出されているなら、勤怠データだけを整えても解決しません。現場ヒアリング、予約表、打刻、残業申請を突き合わせ、書類と実態の両方を直します。

まとめ

雇用契約書と就業ルールは、採用前に勤務の実態を設計して初めて作れます。診療時間の外にある準備と片付け、休憩、休日、残業を可視化し、求人票から労働条件通知書まで同じ条件を通します。試用期間や変更条件も、目的、時期、判断基準を書面と説明でそろえることが重要です。

開院後は、就業規則と業務マニュアルを使い分け、注意指導を事実に基づく手順にし、毎月実態とのずれを確認します。法令対応をひな型任せにせず、院長が現場を具体化し、専門家が法的整合を確認する。この分担が、スタッフにも患者さんにも安定した医院運営をつくります。

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福原 隆久のプロフィール画像

歯科医師・歯学博士/医療法人隆歩会 理事長

福原 隆久

歯科医師・歯学博士、医療法人隆歩会理事長。29歳で開業し、現在は6医院、歯科医師15名、スタッフ総勢約120名の組織を運営。大阪歯科大学口腔衛生学講座非常勤講師、日本口腔衛生学会認定医、IDIA専門医。臨床・採用・教育・歯科医院経営の実践知を発信している。