開院前にスタッフ同士で説明を確認しても、実際の患者さんの動きで初めて見つかる問題があります。外から入口が見えない、受付で何を出せばよいか分からない、問診票を置く場所がない、会計中に電話が鳴ると列が止まるといった、小さな不便の連続です。
プレオープンは、関係者を招いて設備を披露する時間ではなく、受付から帰宅までを本番と同じ条件で動かす検証です。スタッフは自分の担当位置からではなく、初めて来た患者、子ども連れ、高齢者、急患という複数の役を演じます。
以下の三十項目は、合否を付けるだけで終えず、問題が出た場面、原因、修正担当、再テスト日まで記録してください。開院初日の混乱を、患者さんが来る前に経験しておくことが目的です。
開業準備の全体像:歯科医院の開業準備は何から始める?で、この記事を含む開業準備全体の進め方を確認できます。
来院から診療開始までの十項目
建物の外から受付到着までを歩く
確認項目1は、最寄り駅、交差点、駐車場から医院を見つけられるかです。医院を知っているスタッフではなく、住所だけを渡された患者役が歩き、看板が見える角度、夜間の照明、地図アプリの到着地点を記録します。迷った場所はアクセスページと現地表示の両方を直します。
確認項目2は、駐車から入口までの安全です。車幅、切り返し、車止め、歩行者との交差、雨の日の水たまりを確認します。満車時の案内先を受付が説明できるか、無断駐車を誘発する曖昧な表示がないかも試します。
確認項目3は、ベビーカー、車椅子、杖を使う患者の経路です。小さな段差、重い扉、狭い曲がり角、傘立ての位置が障害になります。介助者がどこで声をかければよいか、スタッフが入口まで迎えに出る手順も確認します。
確認項目4は、休診時と診療中の区別が外から分かることです。自動扉が開かないときの案内、診療時間、緊急連絡、インターホンの位置を患者目線で見ます。開院前の仮掲示や工事表示が残っていれば撤去します。
この四項目は、晴れた昼だけでなく、診療開始前、夕方、雨天を想定して行います。院内から外を見る確認では看板の死角や照明の反射を見落とします。患者役が撮った写真と移動時間を残し、ウェブのアクセス案内に同じ景色を使えるかも判断します。
初診受付を説明なしで完了できるか試す
確認項目5は、入った瞬間に受付位置と待つ場所が分かるかです。スタッフが先回りして声をかけず、患者役がどこを見るか観察します。受付カウンターの高さ、荷物置き、診察券や保険資格確認に必要な機器の位置が、動作を妨げないかも見ます。
確認項目6は、初診情報の登録時間とプライバシーです。氏名や生年月日を周囲へ聞こえる声で復唱していないか、画面が待合から見えないか、書類の置き場所が混ざらないかを確認します。入力途中に電話へ出た場合の画面ロックも実行します。
確認項目7は、保険資格を確認できない場合や忘れ物がある場合の対応です。マイナ保険証の読み取り不良、資格情報が表示されない、紹介状を忘れたなど複数の想定を出し、受付が独断で説明を変えずに責任者へつなげられるか試します。
受付テストでは、一人の患者だけでなく、電話中に初診と再診が同時到着する状況をつくります。誰へ先に声をかけ、未処理の書類をどこへ置き、待つ人へ何分後に案内するかを見ます。カウンターの広さより、途中業務を安全に保留できる仕組みが重要です。
問診と待合の不安を見つける
確認項目8は、問診票を患者が一人で理解できることです。紙とウェブの両方があるなら、重複入力や未送信が起きないか、高齢者がスマートフォンを使えない場合に代替手段があるかを確認します。記入済み用紙を他人が見られない回収方法も必要です。
確認項目9は、待合での視線、音、温度です。受付での会話や診療室の説明が聞こえすぎないか、入口の開閉で冷気が当たらないか、車椅子やベビーカーが通路を塞がないかを、混雑人数まで座らせて試します。
確認項目10は、呼び出しから診療室へ移動する分かりやすさです。同姓の患者がいる場合、聞こえにくい患者の場合、子どもが離れた席にいる場合の呼び方を決めます。フルネームを大声で呼ぶ以外の方法と本人確認を組み合わせます。
待ち時間は、実際の時計で計測します。スタッフにとって五分でも、患者役には案内がなく不安な五分かもしれません。予定より遅れるときに、誰が、どの時点で、どの程度の見込みを伝えるかを決め、受付と診療側の連絡が届くか確かめます。
診療開始から診療終了までの十項目
情報を受け渡して診療を始める
確認項目11は、受付情報が診療側へ正しく届くことです。主訴、服薬、アレルギー、感染症に関する申告、配慮事項のうち、誰がどこへ入力し、歯科医師がいつ確認するかを追います。口頭伝達だけで重要情報が落ちないようにします。
確認項目12は、診療室での本人確認です。患者役を意図的に別のユニットへ案内し、氏名や生年月日など院内で定めた方法で誤りを止められるか試します。診療内容、撮影部位、予約目的も開始前に照合します。
確認項目13は、持ち物と衣類への配慮です。眼鏡、補聴器、上着、鞄、傘を置く場所が分かり、貴重品を放置させない案内ができるか確認します。エプロンやタオルが患者の動作を妨げないかも患者役が評価します。
診療開始前の三項目は、正しい患者、正しい情報、正しい目的がそろうための関門です。受付が忙しい、顔見知りである、担当医が急いでいるといった理由で省かれないよう、画面上の必須確認や声かけの順番へ組み込みます。
ユニット周辺の動作と説明を再現する
確認項目14は、診療に必要な物が手順どおりそろうことです。基本セットだけでなく、追加処置になったときの器材を誰が取りに行くか、通路で清潔物と使用済み物が交差しないかを測ります。探す時間はそのまま待ち時間になります。
確認項目15は、口腔内写真やエックス線撮影の流れです。撮影指示、患者案内、防護、画像の患者紐付け、再撮影の判断まで通して行います。撮影した画像が別患者の画面へ入らないか、表示端末の向きも確認します。
確認項目16は、説明の聞こえ方と見え方です。患者役を実際に倒した状態で、モニターの反射、文字サイズ、マスク越しの声、隣室からの音を確認します。専門用語を使わず、患者が選択肢と次の行動を言い返せる説明になっているか試します。
確認項目17は、診療中の呼び出しと応援です。アシスト不足、器材の追加、患者の気分不良が起きた想定で、誰をどう呼ぶかを実行します。大声で患者情報を伝えず、他の診療を止めない連絡手段が機能するか見ます。
一症例を予定時間どおりに通した後、あえて追加撮影、説明の延長、器材不足を発生させます。余裕がなくなったときこそ、記録、患者への説明、次の予約への連絡が抜けます。遅れが連鎖する境目を見つけ、調整権限を持つ人を決めます。
感染対策と緊急時対応を動作で確認する
確認項目18は、使用済み器材が再使用可能になるまでの一方向工程です。回収、洗浄、包装、滅菌、保管を追い、清潔区域へ逆流しないか、鋭利物を手渡ししないか、器材が不足する時間帯がないかを確認します。
確認項目19は、診療台と接触面の清拭、廃棄物、手指衛生です。一人終了後から次の患者を迎えるまでを計時し、忙しいと省略される動作がないか見ます。必要物品が遠いなら、注意喚起より配置変更を優先します。
確認項目20は、患者の急変と災害です。意識消失、アレルギー反応、停電、地震のうち少なくとも一つを予告せず提示し、診療停止、応援要請、救急通報、他患者への案内を行います。緊急物品の場所と期限、搬送経路もその場で点検します。
感染対策と緊急対応は、マニュアルの朗読では合格にしません。手袋を着けたまま引き出しを触る、使用済み器材を置く場所が足りない、救急物品の封を誰も開けられないなど、動作で初めて分かる障害を記録します。
会計から閉院作業までの十項目
会計と次回予約を滞らせない
確認項目21は、診療終了情報が会計へ届く速度と正確性です。処置入力が未完了、歯科医師の確認待ち、物販の追加など例外をつくり、患者を長く待たせる原因を特定します。受付が診療室へ確認する連絡方法も決めます。
確認項目22は、支払手段ごとの動作です。現金、カード、コード決済など採用する手段を本番端末で試し、通信障害、残高不足、取消、領収書再発行に対応します。現金差額と端末売上を誰がいつ照合するかまで行います。
確認項目23は、次回予約と退出案内です。治療計画に合う予約時間が確保できない場合、キャンセル待ち、急患枠、変更方法をどう説明するか確認します。出口、靴、駐車券、忘れ物まで、患者役が医院を出るところまで追います。
会計患者が二人、電話が一本、宅配業者が一人という状況も再現します。窓口を担当する人と後方で処理する人を分けられるか、現金と書類が混ざらないか、呼び出し順を説明できるかを見ます。ピーク時に受付へ集まる業務を減らします。
通信障害と情報事故を想定する
確認項目24は、電話が同時に複数入ったときの優先順位です。窓口患者を待たせる場合の声かけ、保留時間、折り返し記録、急を要する訴えの引き継ぎを試します。個人のメモへ患者情報が残らない記録方法を使います。
確認項目25は、予約システム、レセコン、資格確認、決済のどれかが止まった場合です。障害を切り分け、業者へ連絡し、紙で最低限の診療を継続するか、中止するかの判断系統を確認します。復旧後の二重入力も防ぎます。
確認項目26は、端末の権限と画面ロックです。受付、歯科衛生士、歯科医師が、自分に必要な範囲だけ操作できるか、共通IDが残っていないか、退席時に患者情報が見え続けないかを全端末で確認します。
確認項目27は、誤送信と取り違えです。似た氏名の患者役を用意し、メール、予約通知、紹介状、画像データを送る前の照合手順を実行します。誤りを発見した際に、誰へ報告し、初動を記録するかも確認します。
システム障害テストでは、業者の電話番号を探すところから計時します。契約番号、機器名、表示されたエラー、発生時刻を伝えられるか、業者を装った不審な電話を正規窓口へ折り返せるかも確認します。復旧の速さは連絡情報の整備で変わります。
一日の終わりを本番と同じ手順で閉じる
確認項目28は、未処理業務が一覧で分かることです。未会計、未入力、折り返し電話、技工物発注、次回予約未定、紹介状作成などを、個人の記憶ではなく終業チェックで拾います。担当不在でも翌日へ引き継げる形にします。
確認項目29は、金銭、薬品、個人情報、鍵の施錠です。レジ締め、書類保管、端末終了、バックアップ状態、廃棄書類、薬品庫、出入口を二人で確認し、実施者と時刻を残します。警備設定後に取りに戻る物がないかも試します。
確認項目30は、開院前の改善が期限付きで閉じることです。三十項目の不具合を、患者安全、診療継続、個人情報、待ち時間、見た目の順に優先付けし、担当者と再テスト日を決めます。「気をつける」で終えず、配置、画面、台本、権限を変えて再現確認します。
最後に、開錠から施錠までに必要な鍵、カード、暗証、連絡先を一覧にし、院長が不在でも一日を始めて終えられるか確認します。特定の一人しか知らない手順があれば、開院直後の欠勤で医院全体が止まるため、代行者を決めて再テストします。
まとめ
プレオープンは、完成した医院を祝う場ではなく、患者役が一日の流れを通して欠陥を見つける場です。外からの到着、受付、診療、感染対策、会計、通信障害、閉院作業まで、本番の機器と人数で動かしてください。
三十項目すべてが一度で合格する必要はありません。問題が見つかることこそ成功です。原因、担当、期限、再テストを記録し、重大な不具合を開院日までに確実に閉じることで、スタッフの注意力に依存しない安全な初日を迎えられます。
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