歯科医院の採用がうまくいかない本当の理由|求人を出す前に院長が整えるべきこと|勤務医から開業医まで、歯科医師の働き方・臨床技術・開業準備・医院経営を学べる総合メディア|歯科成功大全

歯科医院の採用がうまくいかない本当の理由|求人を出す前に院長が整えるべきこと

歯科医院の採用がうまくいかないとき、多くの院長は、まず求人媒体や掲載内容を見直そうとします。「もっと目立つ求人サイトへ出した方がよいのではないか」「給与を上げなければ応募は来ないのではないか」と考えるのも自然です。

もちろん、求人を出す場所や条件は重要です。しかし、採用の成否は、どのような人を必要とし、医院で働く価値を説明できるか、入職後の受け入れ体制があるかによっても大きく左右されます。

応募が少ない、面接へ進まない、内定を辞退される、採用しても短期間で退職するという問題は、別々に見えて、実は一つの流れの中で起きています。入口だけを改善しても、採用基準や受け入れ体制が変わらなければ、同じ問題を繰り返します。

この記事では、歯科医院の採用がうまくいかない本当の理由と、求人を出す前に院長が整えるべき採用の土台、さらに応募から定着までを一続きで設計する方法を解説します。

歯科医院の採用がうまくいかない本当の理由

採用活動が思うように進まないと、求人媒体、地域、求職者の不足といった外部環境だけに原因を求めたくなります。しかし、自院の採用方針や職場環境の中に、応募や定着を妨げる要因が隠れていることも少なくありません。

求める人物像が曖昧なまま募集している

「明るくて素直な人」「やる気のある人」「長く働いてくれる人」といった表現だけでは、採用したい人物像は十分に明確になりません。院長とスタッフが同じ言葉を使っていても、思い浮かべている行動は異なることがあります。

たとえば、主体性のある人を求めるのであれば、指示を待たずに何でも進める人なのか、周囲へ相談した上で改善案を出せる人なのかを整理する必要があります。患者に寄り添える人を求めるなら、話を丁寧に聞くこと、分かりやすく説明すること、不安に気づいて声をかけることなど、具体的な行動へ置き換えます。

人物像が曖昧なまま面接をすると、院長や面接担当者の印象だけで合否を決めやすくなります。話しやすかった、感じが良かったという理由で採用しても、実際の仕事で求める行動と合うとは限りません。

最初に考えるべきなのは、今回採用する人にどの役割を担ってもらいたいかです。役割が明確になれば、必要な経験、姿勢、働き方、教育期間も具体的になります。

求人に書かれた内容と実際の職場に差がある

応募を増やすために、求人では良い面を強く伝えたくなります。しかし、実際の職場と大きな差がある表現は、入職後の失望や早期離職につながります。

「丁寧な教育制度があります」と書いていても、実際には忙しい先輩へ質問するしかない。「有給休暇を取得しやすい」と書いていても、周囲へ遠慮しなければ申請できない。「風通しの良い職場」と書いていても、院長へ反対意見を言えない。このような状態では、採用時に期待を高めた分だけ、入職後の不信感も大きくなります。

求人情報は広告であると同時に、医院と応募者の約束でもあります。良い部分だけを見せるのではなく、忙しい時間帯、求める仕事の水準、学ぶ必要があることなども、伝え方を工夫しながら正直に示すことが大切です。

弱点をすべて並べる必要はありませんが、改善中の課題と取り組みを伝えることで、入職後の認識差を減らせます。

組織の問題を新しい人材で解決しようとしている

現場が忙しくなると、「もう一人採用すれば楽になる」と考えます。実際に人員不足が原因であれば、採用は必要です。しかし、役割分担、予約設計、教育方法、人間関係に問題がある場合は、人数を増やしても根本的な解決になりません。

誰が何を担当するか決まっていない医院へ新しい人が入ると、その人も周囲の指示を待つことになります。教育担当者が決まっていなければ、先輩によって教える内容が違い、新人は何が正しいのか分からなくなります。忙しさの原因が業務の重複や無駄にある場合は、人が増えたことで連絡や調整がさらに複雑になることもあります。

既存スタッフの対立や不公平感を解決しないまま新人を入れ、雰囲気を変えようとする方法にも注意が必要です。

採用は組織の課題を解決する手段の一つですが、すべての問題を人員不足として扱ってはいけません。求人を出す前に、本当に必要なのは新しい人材なのか、現在の仕組みの見直しなのかを分けて考える必要があります。

求人を出す前に院長が整えるべき採用の土台

採用活動を始める前に、必要な人材、医院が提供できる価値、入職後の受け入れ体制を整理します。この準備ができていれば、求人内容、見学、面接、採用判断に一貫性が生まれます。

必要な役割・人数・採用時期を明確にする

まず、「人が足りない」という感覚を具体的にします。どの曜日、どの時間帯、どの業務に負担が集中しているのかを確認し、採用する人へ任せたい仕事を書き出します。

歯科衛生士を採用する場合でも、予防処置を中心に任せたいのか、訪問診療にも関わってほしいのか、将来は教育担当者を目指してほしいのかによって、求める人材は変わります。受付であれば、患者対応を中心にするのか、レセプトや採用事務まで担当してもらうのかを整理します。

必要な人数も、単に退職者と同じ人数を補充するのではなく、診療台数、予約枠、勤務時間、今後の事業計画から考えます。常勤一人が必要なのか、曜日を限定した非常勤でよいのか、業務の一部を既存スタッフ間で再配分できないかを検討します。

採用時期は、欠員が出てからでは遅いことがあります。入職後の教育期間も含め、いつまでに独り立ちしてほしいかから逆算します。採用を緊急対応ではなく、医院の人員計画として扱うことが大切です。

自院で働く価値を院長自身が言葉にする

求職者が比較するのは給与や休日だけではありません。どのような医療を学べるのか、誰と働くのか、どのように成長できるのか、自分の生活と両立できるのかなど、複数の要素から職場を選びます。

診療方針、教育への考え方、患者層、勤務時間、子育てとの両立、専門分野を学べる環境など、求職者が価値を感じる点はさまざまです。

大切なのは、何でもある医院として見せることではなく、自院が大切にしていることと、実際に提供できることを一致させることです。技術を深く学べる医院なのか、幅広い診療を経験できるのか、未経験者を段階的に育てるのか、生活との両立を重視するのかを明確にします。

既存スタッフに「なぜこの医院へ入ったのか」「続けている理由は何か」「入職前に知りたかったことは何か」を聞くと、院長が気づいていない魅力や課題が見えてきます。その声を求人内容へ反映すると、抽象的な表現ではなく、実際の職場が伝わる情報になります。

入職後の受け入れと教育体制を準備する

採用が決まってから受け入れ方法を考えるのでは遅いことがあります。初出勤日に誰が迎えるのか、何を説明するのか、一週間目と一か月目に何を覚えてもらうのかを、求人を出す前に準備します。

新しいスタッフは、業務そのものだけでなく、院内の人間関係、質問してよい相手、暗黙のルールにも不安を感じます。制服やロッカーを用意するだけではなく、教育担当者、相談相手、確認の時間を決めておくことが必要です。

教える内容と順番を簡単なチェックリストにし、先輩によって説明が違う部分は基準をそろえます。教育担当者が教えるための時間も確保します。

院長は採用できた時点で安心しがちですが、応募者にとっては入職後が本当の始まりです。受け入れる準備がないまま採用人数だけを増やすと、既存スタッフの負担も増え、新人も定着しにくくなります。

応募から定着につながる採用活動の進め方

採用の土台を整えたら、求人、見学、面接、内定、入職後の支援を一つの流れとして設計します。それぞれの場面で伝える内容や判断基準が変わると、応募者にも院内スタッフにも混乱が生じます。

求人・見学・面接で伝える内容をそろえる

求人では成長を強調しているのに、見学では具体的な教育方法を説明できない。面接では協調性を重視すると言いながら、院内では職種間の会話がほとんどない。このような食い違いは、応募者に不安を与えます。

求人、医院見学、面接で伝える中心内容をそろえましょう。医院の理念、任せたい役割、一日の働き方、教育の流れ、評価の考え方、職場で大切にする行動などを、担当者が変わっても同じ方向で説明できるようにします。

医院見学では設備を紹介するだけでなく、誰と連携し、どのような順番で仕事を覚えるのかまで説明します。

面接は医院が応募者を選ぶ場であると同時に、応募者が医院を選ぶ場でもあります。良く見せることに集中するより、双方が実際の働き方を確認し、合うかどうかを判断できる時間にすることが、長期的な定着につながります。

応募者への対応速度と丁寧さを採用力に変える

良い応募者ほど、複数の医院を比較している可能性があります。応募後の返信が遅い、見学日程がなかなか決まらない、誰から連絡が来るのか分からないという状態では、それだけで辞退されることがあります。

応募が来たら、誰が、どのくらいの時間以内に、どの方法で連絡するかを決めます。見学や面接後も、選考結果を伝える時期を明示し、約束した日までに必ず連絡します。

対応を速くすることは、急いで採用を決めることではありません。応募者を不安なまま待たせず、選考の流れを分かりやすく伝えることです。連絡の丁寧さや院内での迎え方は、その医院が患者やスタッフをどのように扱うかを示す情報になります。

不採用の場合も適切な時期に結果を伝えます。採用活動そのものが医院の評判を作るという意識が必要です。

採用後90日までを採用活動に含める

採用活動は、内定を出した時点や初出勤日で終わりではありません。新しいスタッフが職場に慣れ、基本業務を理解し、周囲との関係を築くまでを含めて考える必要があります。

入職初日、一週間、一か月、三か月などの節目で、業務の理解、不安、人間関係、体調、今後の目標を確認します。できていないことを評価するだけでなく、困っていることや説明不足がないかを聞きます。

特に、入職直後は新人から「分かりません」と言いにくいものです。周囲が忙しそうで質問できない、同じことを二度聞きづらい、誰の指示を優先すればよいか分からないといった小さな不安が積み重なります。相談の機会を医院側から用意することが大切です。

私自身、採用は人数を確保する活動ではなく、その人が組織の中で役割を持ち、成長し、長く力を発揮できる状態を作る活動だと考えています。採用数だけを見ても、早期退職が続けば現場の教育負担と疲労が増えます。

応募数、面接数、内定数だけでなく、入職後三か月や一年の定着、教育の進捗まで振り返ることで、自院の採用活動のどこを改善すべきかが見えてきます。

まとめ

歯科医院の採用がうまくいかない原因は、求人媒体や給与条件だけにあるとは限りません。求める人物像が曖昧であること、求人内容と実際の職場に差があること、組織の問題を新しい人材だけで解決しようとしていることも、応募不足や早期離職につながります。

求人を出す前に、今回採用する人へ任せたい役割、必要な人数、採用時期を具体的にします。その上で、自院で働く価値を言葉にし、入職後の受け入れと教育体制を準備します。

採用活動では、求人、医院見学、面接で伝える内容をそろえ、応募者へ速く丁寧に対応します。そして、内定や入職をゴールにせず、少なくとも入職後90日までを一続きの採用活動として支援します。

採用は、空いた勤務枠を埋める作業ではありません。医院の理念や将来像に合う人と出会い、その人が安心して成長できる環境を整える組織づくりです。

まずは新しい求人を出す前に、「誰を採りたいか」ではなく、「その人に何を担ってもらい、入職後に誰がどのように支えるのか」を書き出してみてください。そこが、歯科医院の採用を改善する最初の一歩になります。

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歯科医師・歯学博士

福原 隆久

29歳で開業し、現在は6医院を展開。歯科医師15名、スタッフ総勢120名規模の組織を率いながら、臨床・採用・教育・医院経営・組織づくりに取り組んでいる。AYM-Dを通して若手歯科医師の技術向上を支援、AYM-Sを通して他院の経営向上もサポート。歯科成功大全では、自院経営と他院支援の両面から培った知見をもとに、机上の理論ではなく、院長が現場で使える実践的な考え方を伝えている。