歯科医院でスタッフ面談を行っていても、「何を話せばよいか分からない」「結局、院長が一方的に話して終わる」と感じることがあります。
面談というと、評価、注意、昇給の説明をする場だと思われがちです。しかし、できていない点を伝えるだけの時間になると、スタッフは面談を警戒し、本当に困っていることや将来の希望を話さなくなります。
一方で、雑談だけで終わる面談も十分とはいえません。本人の話を聞いても、業務上の課題、役割、次の行動が整理されなければ、職場の改善や成長にはつながりません。
歯科医院のスタッフ面談は、現在の仕事の状況を確認し、本人が感じている負担や迷いを早めに把握し、次に目指す役割を一緒に整理する時間です。院長や責任者にとっても、現場の問題や組織のずれを知る大切な機会になります。
この記事では、歯科医院でスタッフ面談を行う目的、1on1で聞くべき質問、面談を形だけで終わらせず具体的な行動へつなげる方法を解説します。
歯科医院でスタッフ面談を行う目的
面談を始める前に、何のために行うのかを明確にする必要があります。評価、相談、育成、勤務条件の確認をすべて一度に扱おうとすると、話が広がりすぎます。まずは、面談の基本的な役割を整理しましょう。
評価を伝えるだけの時間にしない
スタッフ面談で、院長や責任者が評価結果を説明することは必要です。しかし、評価を読み上げ、改善点を伝えるだけでは、一方通行の時間になります。
本人には、仕事をする中で感じている難しさ、評価に対する認識、今後伸ばしたいことがあります。それを聞かずに結論だけを伝えると、院長側では丁寧に説明したつもりでも、本人には「決められたことを伝えられただけ」と感じられます。
面談では、院長が見ている事実と、本人が認識している状況を照らし合わせます。たとえば、報告が遅いという課題がある場合も、本人が報告先を迷っているのか、責任者へ声をかけにくいのか、優先順位を理解していないのかによって対応は変わります。
評価を伝えることと、本人の言い分をそのまま受け入れることは別です。必要な基準は明確に示しながら、なぜその行動になっているのかを確認することで、実行できる改善策を決められます。
問題が大きくなる前に小さな変化を捉える
スタッフの退職や人間関係のトラブルは、院長には突然起きたように見えることがあります。しかし、その前に、質問が減る、発言しなくなる、特定の業務を避ける、疲れた様子が続くといった小さな変化が出ている場合があります。
日常の忙しい診療だけでは、落ち着いて話を聞く時間を確保できません。定期的な面談があれば、本人がまだ大きな問題として認識していない段階でも、負担や違和感を言葉にできます。
「何か問題はありますか」と聞くだけでは、多くの場合「特にありません」で終わります。「最近、やりにくいと感じた業務はあるか」「負担が集中している時間帯はあるか」「質問しにくい相手や場面はあるか」と具体的に尋ねることが大切です。
面談は、退職の意思を探る時間ではありません。本人が安心して働くために、今の環境で調整できることを早く見つける時間です。小さな問題のうちに扱えれば、本人にも医院にも選択肢が残ります。
本人の成長と医院の役割を結びつける
スタッフは、現在の仕事を続けた先に何があるのか分からないと、成長の実感を持ちにくくなります。反対に、医院が次に任せたい役割と、本人が伸ばしたいことが重なれば、仕事への意味を感じやすくなります。
面談では、できるようになったこと、まだ不安なこと、今後経験したい仕事を確認します。歯科衛生士であれば、歯周治療、患者説明、後輩教育など、歯科助手や受付であれば、カウンセリング、採用、院内改善など、役割を広げる方向は一つではありません。
全員に役職を目指してもらう必要はありません。専門性を高めたい人、安定して現在の役割を続けたい人、家庭との両立を優先したい人もいます。本人の希望を聞いた上で、医院として提供できる役割や条件を現実的に話します。
「将来どうなりたいか」と大きな質問だけをするのではなく、「半年後に一人でできるようになりたいことは何か」「今の仕事で、もう少し任せてほしいことはあるか」と具体的に聞くと、次の行動へつなげやすくなります。
スタッフ面談で院長が聞くべき質問
良い面談は、質問の数で決まるものではありません。現在の業務、職場環境、本人の成長という三つの観点から、具体的な事実と考えを聞きます。すべてを一回で聞こうとせず、面談の目的に応じて質問を選びましょう。
現在の仕事と負担を確認する質問
最初に、日々の仕事がどのような状態かを確認します。「最近うまくできるようになったことは何か」「難しいと感じている仕事は何か」「時間が足りない業務はあるか」と聞きます。
本人が「忙しい」と答えた場合は、どの曜日、時間、業務で負担を感じるのかを具体的にします。仕事量そのものが多いのか、役割分担が曖昧なのか、習熟していないため時間がかかるのかによって、必要な対応が異なります。
また、「自分に何を期待されているか分かるか」「判断に迷う仕事はあるか」と聞くことで、役割や権限の曖昧さを確認できます。
本人の感想だけでなく、予約、残業、担当患者、教育の進捗など、確認できる事実も合わせて見ます。院長の印象と本人の実感が違う場合は、どちらかをすぐ否定せず、なぜ差が生まれているかを整理します。
人間関係と職場環境を確認する質問
人間関係について、「誰か嫌な人はいるか」と直接聞くと、スタッフは答えにくくなります。「相談しやすい相手はいるか」「指示が人によって違うことはあるか」「周囲と連携しにくい場面はあるか」と、仕事上の具体的な状況から聞きます。
責任者や教育担当者との関係を確認するときも、個人への好き嫌いだけではなく、説明、指示、相談、フィードバックが機能しているかを見ます。
面談相手である院長や責任者自身への意見も聞けるようにします。「私からの指示で分かりにくいことはあるか」「もっと早く共有してほしい情報はあるか」と問いかけると、組織側の改善点が見つかることがあります。
ただし、スタッフが話した内容を本人の許可なく周囲へ広げてはいけません。医療安全やハラスメントなど、共有が必要な内容では、誰に何を伝えるのかを説明します。相談したことで不利益が生じないという信頼が、率直な会話の土台になります。
成長と今後の希望を確認する質問
面談では、過去の評価だけでなく、今後の成長について話します。「今後身につけたい技術は何か」「経験してみたい仕事はあるか」「今の役割で、もっと任せてほしいことはあるか」と聞きます。
本人の希望が曖昧な場合は、「患者対応、技術、教育、医院運営の中で関心があるものは何か」のように選択肢を示すと考えやすくなります。
希望を聞いたからといって、すべてを実現する約束をする必要はありません。医院の方針、人員、教育体制を踏まえ、可能なこと、今は難しいこと、その理由を正直に伝えます。
また、本人が望む役割に必要な能力や行動も明確にします。「責任者になりたい」という希望があるなら、業務技術だけでなく、報告、問題整理、後輩育成など、次に伸ばす項目を一緒に決めます。
面談の目的は、希望を聞いて終わることではありません。本人の成長と医院の必要性が重なる、小さな次の一歩を見つけることです。
1on1面談を具体的な行動へつなげる方法
面談で良い話ができても、その後に何も変わらなければ、スタッフは次第に面談へ期待しなくなります。話した内容を整理し、次の行動、担当者、期限を決め、継続して確認することが必要です。
院長が話しすぎず事実と本人の考えを分けて聞く
院長は伝えたいことが多いため、面談時間のほとんどを自分が話してしまうことがあります。しかし、本人の状況を知るためには、まず質問し、途中で結論を急がずに聞く必要があります。
本人の発言に事実と解釈が混ざっている場合は、「具体的にいつ、どの場面で起きたのか」「そのとき誰に相談したのか」と整理します。院長側も、「いつもできていない」と決めつけず、確認できた行動をもとに話します。
沈黙があっても、すぐ院長が答えを埋めないようにします。考える時間が必要な人もいます。一方で、質問だけを重ねて追及する形にならないよう、面談の目的が支援と改善であることを伝えます。
本人の意見に同意できない場合も、まずどのように考えたかを確認し、その後で医院の基準や判断を説明します。聞くことと、相手の主張をすべて採用することは別です。
面談の最後に次の行動を一つから三つ決める
多くの課題が見つかっても、一度にすべてを変えようとすると実行できません。面談の最後には、次回までに本人が行うこと、院長や責任者が支援することを一つから三つに絞ります。
たとえば、本人は患者説明後に理解度を確認する、教育担当者は週に一度実技確認を行う、院長は役割分担を会議で見直すというように、誰が何をするかを明確にします。
「もっと頑張る」「コミュニケーションを増やす」といった抽象的な約束ではなく、実際に確認できる行動にします。期限と確認日も決めます。
面談記録には、本人の発言を細かく評価して残すのではなく、確認した事実、合意した目標、医院側の対応を簡潔に記録します。必要な範囲で本人とも共有し、認識の違いを防ぎます。
話した内容へ必ず返答し次回に振り返る
スタッフから相談や提案を聞いても、院長側の対応が止まれば、面談は形だけになります。その場で決められない内容には、誰が確認し、いつまでに返答するかを伝えます。
希望どおりにできない場合も、理由を説明し、代わりに可能な方法があるかを考えます。返答がないことが、最も不信感につながります。
次回の面談では、前回決めた行動が実施できたか、どのような変化があったかを最初に確認します。できなかった場合は、本人の意欲だけを責めず、目標が大きすぎなかったか、時間や支援が不足していなかったかを見直します。
私自身、スタッフ数が増えるほど、日常の様子だけで一人ひとりの考えや負担を把握することは難しくなると感じています。だからこそ、定期的に話す時間を予定化し、聞いた内容を行動へつなげる仕組みが必要です。
面談は、院長がスタッフを説得する時間でも、スタッフが要望を並べる時間でもありません。双方が事実と考えを共有し、患者、本人、医院にとってより良い次の行動を決める時間です。
まとめ
歯科医院のスタッフ面談は、評価や注意を一方的に伝えるためだけの時間ではありません。現在の仕事、負担、人間関係、成長の希望を確認し、問題が大きくなる前に対応するための大切な機会です。
面談では、できていない点だけでなく、できるようになったことも確認します。院長が見ている事実と、本人が感じている状況を照らし合わせ、行動の背景を整理します。
質問は、現在の仕事と負担、人間関係と職場環境、成長と今後の希望という三つの観点から行います。「問題はないか」と聞くだけでなく、やりにくい業務、判断に迷う場面、相談しにくい状況などを具体的に尋ねます。
面談中は、院長が話しすぎず、事実と本人の考えを分けて聞きます。必要な基準は曖昧にせず伝えながら、本人の意見を理解した上で次の行動を決めます。
面談の最後には、本人と医院側が行うことを一つから三つに絞り、期限と確認日を決めます。相談された内容には必ず返答し、次回の面談で前回の行動を振り返ります。
良い1on1は、何でも話せる楽しい時間だけでも、厳しく評価する時間だけでもありません。話した内容が具体的な支援と行動へ変わり、スタッフと医院の双方が少しずつ前へ進める時間です。
まずは次の面談で、「最近できるようになったこと」「今やりにくい仕事」「半年後に伸ばしたいこと」の三つを聞いてみてください。そこから、評価、相談、育成がつながる面談を始められます。
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