院長・幹部・本部の役割分担|多院展開でも組織を崩さない仕組みの作り方|勤務医から開業医まで、歯科医師の働き方・臨床技術・開業準備・医院経営を学べる総合メディア|歯科成功大全

院長・幹部・本部の役割分担|多院展開でも組織を崩さない仕組みの作り方

歯科医院を複数展開すると、一医院のときには起こらなかった組織上の問題が増えていきます。理事長がすべての医院の状況を直接把握できなくなり、分院長や幹部、本部を通じて組織を動かす必要が生まれるからです。

しかし、役職や部署を作っただけでは、組織は機能しません。誰が何を決めるのかが曖昧なままでは、現場の問題がすべて理事長へ集まり、幹部は指示を伝えるだけの存在になり、本部と医院の間には距離が生まれます。

分院長は「本部が現場を分かっていない」と感じ、本部は「現場が決めたルールを守らない」と感じる。理事長は双方の調整に追われ、本来行うべき将来の計画や重要な人材育成へ時間を使えなくなります。

多院展開で必要なのは、すべての医院を理事長が直接管理することでも、本部が細かな業務まで統一することでもありません。院長、幹部、本部が、それぞれ何に責任を持ち、どこまで判断し、どの問題を次の責任者へつなぐのかを明確にすることです。

この記事では、多院展開で役割分担が崩れる理由と、院長・幹部・本部それぞれが担うべき役割、さらに複数医院を同じ方向へ動かすための具体的な仕組みを解説します。

多院展開で役割分担が崩れる理由

医院数が増えると、組織図には分院長、統括責任者、本部などの役職が加わります。しかし、名前だけが増え、判断と責任の流れが以前のままであれば、実際の運営は理事長中心から変わりません。

理事長がすべての医院へ直接指示している

理事長は、法人の理念や基準を最も深く理解しています。現場を見れば問題にも早く気づくため、その場で直接スタッフへ指示したくなることがあります。

しかし、理事長が分院長や幹部を通さずに指示を出すと、現場には複数の指示系統が生まれます。分院長から言われたことと理事長から言われたことが違えば、スタッフはより上位の理事長の指示を優先します。

その状態が続くと、分院長は責任者として判断しなくなります。自分で決めても理事長に変更されるなら、最初から確認した方が安全だからです。

理事長が現場へ入ること自体が悪いわけではありません。患者やスタッフと接し、法人の現実を知ることは重要です。ただし、緊急性がない問題は、まず分院長や担当幹部と共有し、その責任者から現場へ働きかけてもらいます。

理事長は、目の前の一つの問題を自分で解決するより、その問題を誰が継続的に管理するのかを考える必要があります。

幹部が理事長と現場の伝言役になっている

幹部の仕事が、理事長の指示を各医院へ伝え、現場の不満を理事長へ持ち帰るだけになっている組織があります。

この状態では、幹部自身が判断できることが少なく、現場から質問を受けても「確認しておきます」としか答えられません。結果として、すべての判断が理事長へ戻ります。

また、理事長の決定理由を理解しないまま伝えると、幹部は現場から反発を受けます。現場の意見をそのまま理事長へ伝えるだけでも、問題の事実や原因が整理されません。

幹部には、法人の方針を現場の行動へ翻訳し、現場の問題を事実として整理して経営側へ届ける役割があります。そのためには、一定の判断権限と、判断に必要な数字や背景情報が必要です。

伝言役ではなく、法人と現場の双方を理解し、問題解決を進められる立場として幹部の役割を設計することが大切です。

本部と現場が対立する関係になっている

医院数が増えると、採用、労務、経理、広報、物品管理などを本部でまとめるようになります。共通化によって効率は高まりますが、本部が現場の事情を十分に確認せずルールを決めると、医院側には負担だけが増えることがあります。

反対に、各医院が「現場には現場の事情がある」と独自の方法を続ければ、法人全体の管理ができません。給与、採用、医療安全、個人情報など、医院ごとに基準が違ってよいわけではない領域もあります。

本部が現場を監視する側、医院が本部の指示へ抵抗する側になると、必要な情報が正確に共有されなくなります。本部からの依頼は後回しにされ、現場からの相談は「ルールを守ってください」と処理されます。

本部の役割は、現場を支配することではありません。各医院が医療と患者対応へ集中できるよう、共通業務を整え、必要な情報を集め、法人全体の基準を守ることです。

現場と本部は上下関係だけで考えるのではなく、異なる役割を持つ協力関係として設計する必要があります。

院長・幹部・本部が担うべき役割

役割分担では、仕事を均等に分ける必要はありません。それぞれの立場にしかできない判断を明確にし、その役割に必要な権限、情報、責任を一致させます。

院長は医院の医療・人材・数字に責任を持つ

分院長や各医院の院長は、自院の医療品質、患者対応、スタッフ、日常の数字に責任を持ちます。

自分の診療を行うだけでなく、勤務医の診療上の問題、スタッフ教育、患者からの意見、予約の流れ、キャンセルなど、医院全体の状態を把握します。

ただし、院長がすべての業務を自分で行う必要はありません。院内の責任者へ役割を任せ、必要な報告を受けながら、医院としての最終判断を行います。

本部へ何でも依頼するのではなく、医院内で解決できる問題は院長と現場責任者が対応します。一方、採用条件、労務、重大な患者対応、法人全体へ影響する問題などは、早い段階で幹部や本部へ報告します。

院長には、自院の問題を隠さず、事実と対応状況を報告する責任があります。良い数字だけを伝え、問題が大きくなってから本部へ相談する状態では、法人として支援できません。

幹部は複数医院を横断し、責任者を育てる

幹部は、各医院の日常業務をすべて代わりに行う人ではありません。複数医院を横断して状況を把握し、法人の方針と各医院の運営をつなぐ役割を担います。

特定の医院だけで起きている問題なのか、複数医院に共通する問題なのかを見極めます。共通する問題であれば、個別対応だけでなく、法人全体のマニュアル、教育、会議の改善へつなげます。

また、分院長や院内責任者から相談を受けた際に、すべての答えを代わりに出すのではなく、本人が問題を整理し、判断できるよう支援します。

幹部が各医院の問題を自分で処理し続けると、分院長は育たず、幹部自身も多忙になります。幹部の重要な仕事は、問題を解決することに加え、次からその責任者が自分で対応できる状態を作ることです。

理事長には、現場の事実、共通課題、必要な経営判断を整理して報告します。現場には、法人の方針と判断理由を、自院の行動へ落とし込んで伝えます。

本部は共通業務を標準化し、現場を支援する

本部は、各医院で重複している事務業務や、法人全体で統一すべき業務を引き受けます。採用事務、労務、経理、広報、物品、データ集計などが該当します。

共通化することで、各医院の院長やスタッフが、本来の医療と患者対応へ集中できる状態を作ります。

ただし、本部が業務を引き受けるなら、何をどこまで対応するのか、医院側がいつまでに何を提出するのかを明確にします。依頼方法や締切が曖昧であれば、双方に「対応してくれない」という不満が生まれます。

本部は、数字や書類だけで判断せず、必要に応じて現場の状況を確認します。各医院も、例外を主張するだけでなく、なぜ共通ルールでは対応できないのかを事実として説明します。

本部の成果は、規則を増やした数ではありません。現場の負担が減り、必要な情報が正確に集まり、法人全体の安全性と経営の安定が高まったかによって判断する必要があります。

役割分担を機能させるための仕組み

役割を書類にまとめても、日常の報告や会議で使われなければ機能しません。誰が決め、誰へ報告し、問題が起きたときにどの順番で対応するかを、実際の運営へ落とし込みます。

意思決定と報告の基準を明確にする

業務ごとに、「医院で決めること」「幹部へ事前相談すること」「本部が決めること」「理事長が最終判断すること」を整理します。

たとえば、通常の診療配置は院長が決め、法人全体の人員異動は幹部や本部と相談する。一定金額以内の物品購入は医院で判断し、高額設備は理事長が決めるという形です。

さらに、事前承認が必要なもの、事後報告でよいもの、定期報告するものを分けます。すべてを事前承認にすると組織の動きが遅くなり、すべてを現場判断にすると法人全体を管理できません。

問題が起きた際の報告基準も必要です。医療事故、重大なクレーム、ハラスメント、労務上の問題など、影響が大きいものは、各医院だけで抱えず早期に報告します。

判断基準は、役職者だけでなく、必要なスタッフにも共有します。誰に何を相談すればよいかが分かれば、分院長や本部を飛び越えて理事長へ直接連絡が集まる状態を減らせます。

会議ごとの目的と参加者を整理する

多院展開では会議が増えやすくなります。理事長会議、分院長会議、幹部会議、本部会議、職種会議などを作っても、同じ報告を繰り返していれば時間だけが増えます。

会議ごとに、共有する情報、決めること、参加する人を整理します。分院長会議では、各医院の医療、人材、数字、共通課題を扱います。本部会議では、採用、労務、経理などの進捗と、現場への支援を確認します。

数字や予定など、会議前に読めるものは事前共有し、会議では変化の理由、判断が必要なこと、担当者と期限を確認します。

会議後には、決定事項、担当者、期限、どのスタッフへ共有するかを記録します。議論に参加していないスタッフへ、途中の意見や未確定情報まで広げる必要はありません。

会議を増やすのではなく、必要な判断が適切な責任者の場で行われているかを定期的に見直すことが大切です。

役割の重複と空白を定期的に見直す

医院数やスタッフ数が変われば、以前の役割分担が合わなくなることがあります。院長と本部の両方が同じ仕事を行っている一方で、誰も責任を持っていない業務が残ることもあります。

問題が起きるたびに担当者を増やすと、役割が複雑になり、最終責任者が分からなくなります。業務ごとに主担当を一人決め、協力者と承認者を分けます。

現場から「本部が対応してくれない」という声が出た場合は、本部の能力だけでなく、その仕事が本当に本部の役割なのか、依頼方法が決まっていたかを確認します。

本部から「医院が協力しない」という声が出た場合も、現場が必要性を理解しているか、依頼内容や期限が現実的かを見直します。

私自身、組織が大きくなるほど、役職を増やすことより、誰が何に責任を持つかを繰り返し整理することが重要だと感じてきました。

理事長、幹部、分院長、本部が互いの仕事を奪い合うのではなく、それぞれが自分の責任を果たし、必要な問題を適切な相手へつなぐことで、多院展開でも組織は安定します。

まとめ

多院展開で組織が崩れる原因の一つは、院長、幹部、本部の役割と意思決定の範囲が曖昧なことです。

理事長がすべての医院へ直接指示すると、分院長の責任と権限が失われます。幹部が伝言役になると、すべての判断が理事長へ戻ります。本部と現場が対立すると、必要な情報や支援が届かなくなります。

各医院の院長は、自院の医療、患者、スタッフ、日常の数字に責任を持ちます。幹部は、複数医院を横断して共通課題を見つけ、分院長や責任者を育てます。本部は、共通業務を標準化し、現場が医療へ集中できる環境を作ります。

役割分担を機能させるには、医院で決めること、幹部へ相談すること、本部が担うこと、理事長が最終判断することを業務ごとに整理します。事前承認、事後報告、定期報告の違いも明確にします。

会議は、役職ごとに集まることを目的にせず、何を共有し、何を決める場なのかを明らかにします。決定事項には担当者と期限をつけ、必要なスタッフへ正確に共有します。

また、組織の成長に合わせて、役割の重複と空白を定期的に見直します。役職名や組織図を作るだけでなく、実際の仕事、情報、判断がどのように流れているかを確認することが大切です。

強い多院組織とは、理事長がすべてを把握している組織ではありません。各医院の院長、幹部、本部が、自分の責任と権限を理解し、必要な問題を隠さず共有しながら、それぞれの場所で適切に判断できる組織です。

まずは、現在理事長へ直接集まっている相談を一週間分書き出し、「医院で判断できること」「幹部が対応すること」「本部が担うこと」「理事長が判断すべきこと」に分けてみてください。相談の流れを整理することが、多院展開でも組織を崩さない役割分担の第一歩になります。

医院マネジメントを深めたい院長先生へ

採用・教育・組織づくりを、院長一人で抱え込まないために

歯科成功アカデミーでは、医院経営、スタッフ教育、採用、定着、幹部育成、自費アップまで、歯科医院の成長に必要なテーマを継続的に学べます。

歯科成功アカデミーを見る

福原 隆久のプロフィール画像

歯科医師・歯学博士

福原 隆久

29歳で開業し、現在は6医院を展開。歯科医師15名、スタッフ総勢120名規模の組織を率いながら、臨床・採用・教育・医院経営・組織づくりに取り組んでいる。AYM-Dを通して若手歯科医師の技術向上を支援、AYM-Sを通して他院の経営向上もサポート。歯科成功大全では、自院経営と他院支援の両面から培った知見をもとに、机上の理論ではなく、院長が現場で使える実践的な考え方を伝えている。