分院長が育たない理由|院長候補を見極め、任せるまでのステップ|勤務医から開業医まで、歯科医師の働き方・臨床技術・開業準備・医院経営を学べる総合メディア|歯科成功大全

分院長が育たない理由|院長候補を見極め、任せるまでのステップ

歯科医院を複数展開しようとすると、必ず必要になるのが分院長です。院長がすべての医院で診療し、スタッフ対応や患者対応まで直接行うことはできないため、各医院の医療と組織を任せられる歯科医師を育てなければなりません。

しかし、臨床技術が高く、患者からの評判も良い歯科医師を分院長にしたからといって、医院運営までうまくいくとは限りません。自分の診療を完結できる力と、スタッフを育て、数字を見て、医院全体の問題を解決する力は別だからです。

分院長に任命した後も、重要な判断がすべて理事長へ集まり、本人は診療だけを続けている。反対に、教育も権限も与えず結果だけを求め、本人が疲弊する。このような状態では、分院全体も不安定になります。

分院長育成で大切なのは、役職を与えてから成長を期待することではありません。候補者を見極め、小さな管理経験を積ませ、必要な情報と権限を段階的に渡しながら、院長としての判断を学んでもらうことです。

この記事では、歯科医院で分院長が育たない理由、院長候補として確認したい資質、そして一人の歯科医師へ医院を任せるまでの具体的なステップを解説します。

歯科医院で分院長が育たない理由

分院長が期待どおりに動かないとき、本人の責任感や経営意識だけを問題にしてはいけません。選び方、役割の伝え方、任せる側の関わり方に原因がある場合も多くあります。

臨床技術と勤続年数だけで院長候補を選んでいる

分院長候補として最初に名前が挙がりやすいのは、臨床技術が高く、長く勤務している歯科医師です。患者から信頼され、売上も安定している人なら、医院を任せられそうに見えます。

しかし、優れた勤務医であることと、優れた分院長であることは同じではありません。分院長には、自分の診療だけでなく、他の歯科医師やスタッフの状態、患者からの意見、予約の流れ、医院の数字まで見ることが求められます。

自分の診療に集中したい人へ管理業務を任せると、本人にとっても負担になります。技術の高い人が、人を育てることや問題の調整を望んでいるとは限りません。

候補者を見るときは、臨床能力に加えて、問題が起きたときに事実を整理できるか、周囲の成長を支えられるか、自分に不利な情報も報告できるかを確認します。

分院長という役職を、優秀な勤務医への唯一の昇進先にしてはいけません。臨床を深める道と、医院運営を担う道を分け、本人の希望と適性を見ながら選ぶ必要があります。

役職を与えた後に何を任せるか考えている

「来月から分院長をお願いします」と伝えたものの、実際に何をする役職なのかが整理されていない医院があります。本人には肩書だけが増え、これまでと同じように診療を続けながら、問題が起きたときだけ対応を求められます。

分院長の役割には、診療品質、スタッフ教育、患者対応、数字の確認などがあります。どこまでを本人が担い、どこからを本部や理事長が担うのかを明確にします。

採用、解雇、給与、設備投資など、最終判断を法人側が持つ業務もあります。一方で、日常の配置、診療中の判断、一定範囲の患者対応まで毎回理事長の承認を求めるなら、分院長は責任者として機能しません。

任命前に、期待する結果、自分で決めてよいこと、事前相談が必要なこと、定期報告することを一覧にします。役職名ではなく、具体的な仕事と権限を先に設計することが必要です。

理事長が任せた後もすべての判断を取り戻している

分院長へ任せたつもりでも、理事長が現場へ直接細かな指示を出し、分院長の判断を後から変更していると、スタッフは最終的に理事長へ聞けばよいと考えます。

分院長も、自分で決めても覆される経験が続けば、重要なことほど判断しなくなります。表面上は慎重に報告しているように見えても、実際には責任を持たない状態になります。

医療安全、法令、法人全体へ影響する事項には、理事長の関与が必要です。しかし、方法が自分と違うという理由だけで介入すれば、分院長は育ちません。

任せた範囲では、理念と基準を満たす限り、本人の判断を尊重します。問題が起きても、すぐ権限を取り上げず、判断の過程を振り返ります。

理事長が手放せないことも、分院長が育たない原因になります。任せる側にも、判断の違いを受け入れ、結果から一緒に学ぶ覚悟が必要です。

分院長候補として確認したい三つの力

分院長には、すべてを一人でできる完成された経営者を求める必要はありません。ただし、医院を任せる前に、医療、人、数字という三つの領域へ向き合う姿勢と、学ぶ土台があるかを確認します。

医療の質と患者への責任を守る力

分院長の土台は、歯科医師として安全で誠実な診療を行えることです。臨床技術の高さだけでなく、自分の限界を理解し、必要なときに相談や紹介ができることも重要です。

難しい症例を一人で抱え込む、問題を隠す、売上を優先して無理な診療を行う人へ医院を任せることはできません。医療上の不安や患者からの不満を早い段階で報告できる誠実さが必要です。

また、分院長は自分の診療品質だけでなく、医院全体の医療品質にも関わります。勤務医の診療やスタッフの感染対策に問題があれば、事実を確認し、必要な指導や相談につなげます。

自分が最も上手に治療するだけではなく、医院全体で一定の質を守ろうとする姿勢が、分院長には求められます。

スタッフと向き合い、人を育てる力

分院長になると、歯科医師以外のスタッフからも相談を受けます。診療のことだけでなく、人間関係、教育、勤務、患者対応など、答えが一つではない問題にも向き合わなければなりません。

スタッフから好かれることだけが必要なのではありません。話を聞きながら、医院として守るべき基準は明確に伝え、必要な注意や役割調整を行えることが大切です。

感情的に叱る、反対に嫌われることを恐れて何も言わないという両極端では、組織は安定しません。事実、影響、求める行動を整理して対応します。

さらに、何でも自分で解決するのではなく、幹部スタッフを育てる視点も必要です。分院長一人へ判断が集中すれば、今度は分院長が組織のボトルネックになります。

周囲へ小さな役割を任せ、成長を支援できる人かどうかは、分院長候補を見極める重要なポイントです。

医院の数字を理解し、改善へつなげる力

分院長に経理や法人全体の財務をすべて任せる必要はありません。しかし、自分が担当する医院の患者数、売上、キャンセル、稼働状況、人件費など、基本的な数字には関心を持ってもらう必要があります。

数字を見ずに「忙しい」「人が足りない」と判断すると、原因を誤ります。予約の集中、診療時間の見積もり、キャンセルなど、原因によって対策は変わります。

大切なのは、数字だけを追い、スタッフへ売上を求めることではありません。数字を、患者や現場で起きていることを理解するための情報として使うことです。

分院長候補には、月ごとの数字を一緒に確認し、変化の理由と改善案を考えてもらいます。最初から正確な経営判断を求めるのではなく、事実から仮説を立て、結果を振り返る習慣を作ります。

医療、人、数字を別々に見るのではなく、互いの影響を考えられることが、分院長としての経営視点につながります。

院長候補を見極め、医院を任せるまでのステップ

分院長は、任命の日に突然完成するものではありません。候補者の意思を確認し、限定した役割から経験を積ませ、試行期間を通して双方が適性を確認します。

本人の意思を確認し、小さな管理経験を任せる

分院長候補を考えるときは、まず本人が将来どのような働き方を望んでいるかを聞きます。院長から期待されているため断れず、望んでいない役職を引き受けると、長く続きません。

興味がある場合は、いきなり一医院を任せず、小さな管理経験から始めます。勤務医の症例相談、新人歯科医師の教育、診療会議の進行、患者対応の振り返り、月次数字の確認などです。

任せる際には、目的、期待する結果、判断できる範囲、報告方法を明確にします。実際の経験を通じて、本人が管理業務へ関心を持てるか、周囲との関わりにどのような課題があるかを確認します。

一つの結果だけで決めず、複数の場面で継続して見ます。難しい問題から逃げずに相談できるか、失敗を振り返れるかも重要です。

副院長・院長代行として試行期間を設ける

候補者として一定の経験を積んだら、副院長や院長代行として、期間を決めて役割を広げます。理事長や現院長が不在の日に、診療上の判断、スタッフ配置、患者対応などを担当してもらいます。

試行期間では、何を評価するかを事前に伝えます。売上だけでなく、報告の適切さ、スタッフとの連携、問題対応、医療品質、数字の理解などを確認します。

本人だけでなく、幹部スタッフや本部からも、具体的な事実を集めます。ただし、人気投票で分院長を決めるのではありません。スタッフに好かれているかではなく、必要な役割を公平に果たせているかを見ます。

毎週または毎月、理事長と振り返りの時間を設けます。うまくいったこと、判断に迷ったこと、次に改善することを整理し、必要な教育を行います。

試行した結果、本人が分院長を望まない、現時点では別の役割が合うと分かることもあります。それは失敗ではありません。正式任命の前に双方が適性を確認できたことに意味があります。

正式任命後も支援と評価を続ける

正式に分院長へ任命した後も、すぐに理事長の支援をなくしてはいけません。初めて経験する問題が次々に起こるため、定期的な相談と振り返りが必要です。

分院長会議や個別面談で、医療、スタッフ、患者、数字を確認します。本人から報告を受けるだけでなく、法人の方針や今後の計画も共有します。

評価では、個人の売上や診療数だけでなく、医院全体の安定、スタッフ育成、問題の早期報告、患者対応なども見ます。役割に見合う権限、時間、処遇を整えることも欠かせません。

理事長が現場へ入る場合も、分院長を飛び越えて直接指示を出さないよう注意します。緊急時を除き、気づいた問題はまず分院長と共有し、本人が現場へ働きかけられるよう支援します。

私自身、複数医院を運営する中で、分院長へ医院を任せることは、単に診療を代わってもらうことではないと感じてきました。自分の責任で人と組織に向き合える歯科医師を育てる必要があります。

任せた後も支援し、必要なときには修正しながら、少しずつ理事長が関与しなくても判断できる範囲を広げることが、分院長育成です。

まとめ

歯科医院で分院長が育たない原因は、候補者の責任感だけにあるとは限りません。臨床技術と勤続年数だけで選び、役職名だけを与え、理事長がすべての判断を取り戻していれば、本人は院長として成長できません。

分院長候補には、医療の質と患者への責任を守る力、スタッフと向き合い人を育てる力、医院の数字を理解して改善へつなげる力が必要です。

ただし、任命時点ですべてを完成させる必要はありません。本人の意思を確認し、症例相談、新人教育、会議、数字の確認など、小さな管理経験から始めます。

その後、副院長や院長代行として試行期間を設け、診療、スタッフ、患者、数字に関する判断を段階的に任せます。結果だけでなく、報告、問題整理、周囲との連携、判断の過程を振り返ります。

正式任命後も、定期的な会議と面談を続け、法人の方針と必要な情報を共有します。役割に見合う権限、時間、評価、処遇を整え、理事長が分院長を飛び越えて現場へ指示しないことも大切です。

分院長とは、理事長と同じ診療や判断をする人ではありません。法人の理念と基準を理解しながら、自分の医院の患者、スタッフ、数字に責任を持ち、必要なときには理事長へ相談できる人です。

まずは分院長候補として考えている歯科医師について、「医療」「人」「数字」の三つのうち、現在どこまで任せられ、どこに経験が不足しているかを書き出してみてください。役職を与える前に、必要な経験を小さく任せることが、分院長育成の第一歩になります。

医院マネジメントを深めたい院長先生へ

採用・教育・組織づくりを、院長一人で抱え込まないために

歯科成功アカデミーでは、医院経営、スタッフ教育、採用、定着、幹部育成、自費アップまで、歯科医院の成長に必要なテーマを継続的に学べます。

歯科成功アカデミーを見る

福原 隆久のプロフィール画像

歯科医師・歯学博士

福原 隆久

29歳で開業し、現在は6医院を展開。歯科医師15名、スタッフ総勢120名規模の組織を率いながら、臨床・採用・教育・医院経営・組織づくりに取り組んでいる。AYM-Dを通して若手歯科医師の技術向上を支援、AYM-Sを通して他院の経営向上もサポート。歯科成功大全では、自院経営と他院支援の両面から培った知見をもとに、机上の理論ではなく、院長が現場で使える実践的な考え方を伝えている。