新規開業資金

歯科医院開業に必要なリアルな資金と現実的な経営の注意点

歯科医院を開業する――これは多くの歯科医師にとって、一つの大きな夢であり、目標です。しかし現実には「お金」という大きな壁があります。
歯科医院の開業には多額の費用がかかり、その内訳や必要資金を正しく把握しておかないと、開業後の経営破綻も起こりかねません。
本稿では、歯科医院の新規開業を目指す方に向けて、実際に必要となるリアルな資金額を徹底解説します。
さらに、多くの開業医が陥りがちな「落とし穴」である保険診療中心の経営リスクと自費診療の重要性についても、具体的にお伝えします。

開業資金の基本構造を理解しよう

まず、歯科医院の開業資金は、大きく以下の6つに分けて考えるとわかりやすいです。

  1. 物件取得費用
  2. 内装・設備工事費
  3. 医療機器・ユニット費用
  4. 採用・人件費
  5. IT・広告宣伝費用
  6. その他費用(コンサル、保険など)

これらをすべて合わせると、7,000万円〜1億円超は珍しくありません。以下、順番に詳細を説明します。

物件取得費用(敷金・礼金・保証金)

歯科医院を開業する場合、多くは賃貸物件です。物件取得にかかる費用は、家賃の6〜12ヶ月分の敷金・保証金+仲介手数料が目安。

例えば、月60万円のテナントなら、保証金(敷金)360万円〜720万円+仲介手数料60万円=約400万円〜800万円です。

内装・設備工事費は開業費用の中心

内装・設備工事は最も費用がかかる部分です。
清潔感・高級感・バリアフリー対応、個室・半個室などを重視すると、坪単価100万〜150万円はごく一般的。

【目安】

30坪のクリニックの場合:

  • 坪単価100万円 → 3,000万円
  • 坪単価150万円 → 4,500万円

さらに電気・給排水・空調・ネット配線など、歯科特有の設備工事も加わります。

医療機器・ユニット費用(現実的価格で試算)

診療ユニットは、1台あたり約250万〜500万円が現実的な相場です。
最新型で高機能なものは高額になりますが、最初は標準的な機種で十分です。

【例】ユニット3台の場合

250万円 × 3台 = 750万円
(高性能機種を選んでも1,500万円以内に収まるケースが多い)

レントゲン機器はパノラマレントゲンで約500万円〜800万円、CT付きだと1,000万円〜1,500万円。
滅菌器や口腔内カメラ、技工用機器を合わせると300万〜500万円程度が一般的です。

医療設備の目安合計

  • ユニット3台:750万円
  • レントゲン(パノラマ+CT):1,200万円
  • 滅菌・技工設備:400万円
    合計:約2,350万円〜3,000万円

採用・人件費(年々高騰)

スタッフの採用費は、かつてないほど高騰しています。
Indeed、ジョブメドレーなどのネット求人広告費は、1職種あたり50万〜150万円かかるケースが多いです。

【例】歯科衛生士2名、歯科助手2名、受付1名を採用

広告費用:250万〜500万円

さらに、開業前に行う院内研修・外部セミナーには100万〜300万円、開業準備期間中の人件費(2〜3ヶ月分)も必要です。

人件費総額の目安

  • 採用広告費:300万円
  • 研修・教育費:150万円
  • 開業前人件費:450万円(スタッフ5人×月30万円×3ヶ月)
    合計:約900万円〜1,000万円

IT・広告宣伝費(必須の先行投資)

ITシステム費用

  • レセコン(会計システム):150万〜300万円
  • 電子カルテ、サーバー設置費:100万〜200万円
  • ホームページ制作(予約機能付き):100万〜200万円
  • ネットワーク・電話設備:50万〜100万円
    合計:約400万〜800万円

広告宣伝費用

  • チラシ・ポスティング:50万〜100万円
  • Google・SNS広告:100万〜150万円
    合計:約150万〜250万円

その他費用(コンサル・保険など)

開業コンサル費用

100万〜300万円(事業計画作成、物件選び支援、スタッフ教育支援など)

保険料(賠償責任保険など)

30万〜50万円

備品・雑費

文房具、ユニフォーム、待合室の家電・家具などで50万〜100万円。

トータル費用の現実的な目安(30坪・チェア3台のモデル例)

項目 金額目安
物件取得費 約500万円
内装・設備工事費 約3,500万円
医療設備費 約2,500万円
採用・人件費 約1,000万円
IT・広告宣伝費 約1,000万円
その他費用(コンサル等) 約400万円
合計 約8,900万円
運転資金(最低 500万〜1,000万円

約9,000万〜1億円の資金が必要になると考えるのが現実的です。

開業後の資金繰りの“落とし穴”に要注意

ここで最も重要な注意点をお伝えします。
多くの開業歯科医師が見落としがちなのが、保険診療の入金サイクルの遅さです。

保険診療の現金化は約2ヶ月遅れ

保険診療の収入は、診療後にレセプトを提出し、審査を経て入金される仕組みです。
つまり、診療月の2ヶ月後に入金されるため、開業直後は資金繰りが非常に厳しくなりやすいのです。

自費診療が生命線になる

このため、自費診療を早期から取り入れることが、資金繰り安定のカギです。
自費診療は治療後すぐに現金が入るため、保険収入の入金までの資金ギャップを埋める役割を果たします。

自費メニュー例

  • ホワイトニング
  • セラミック治療
  • インプラント
  • 矯正治療

開業初期から自費メニューの準備と説明体制を整えておくことが、経営安定への必須条件です。

1億円超の資金準備+自費導入で経営を守れ

歯科医院の開業は、

  • 内装・設備工事費の高額化
  • 採用費の高騰
  • IT導入費用の必須化によって、1億円前後の資金が必要になるのが現実です。

さらに開業後は、保険診療中心の経営では資金ショートの危険性が高いため、必ず自費診療を早期から推進する体制が不可欠です。