
「患者もスタッフも満足する歯科医院」の作り方
はじめに

「患者さんのためには、スタッフの多少の犠牲は仕方ない」「スタッフの働きやすさを追求すると、患者さんへのサービスが低下する」
多くの医院経営者が、無意識のうちに「患者満足」と「スタッフ満足」を天秤にかけ、どちらかを優先すればどちらかが犠牲になる、というトレードオフの関係で捉えてしまっているのではないでしょうか。しかし、私が6つの分院を経営する中で確信したことは、その真逆です。患者満足とスタッフ満足は、対立するものではなく、むしろ相互に影響し合い、高め合う、切っても切れない関係にあるのです。
この両立こそが、一過性の成功ではない、持続可能な歯科医院経営の絶対的な鍵となります。本記事では、綺麗事ではなく、私が現場で実践し、確立してきた「患者もスタッフも幸せになるWin-Winの医院づくり」について、その具体的な考え方と実践方法を、惜しみなく公開していきます。
1. なぜ「患者満足」と「スタッフ満足」は
両立できるのか?
この問いに答える前に、まず従来の歯科医院が陥りがちな誤解を解く必要があります。それは、「患者さんを最優先する」という崇高な理念が、いつの間にか「そのためにスタッフが無理をするのは当然だ」という考えにすり替わってしまうことです。例えば、患者さんの都合に合わせて診療時間を無制限に延長したり、一人のスタッフに過度な業務を集中させたりするケースです。これでは、スタッフは疲弊し、心からの笑顔や質の高いパフォーマンスを発揮することはできません。
真実は、その逆です。心から満足して働いているスタッフこそが、最高の患者体験を生み出す最大の資源なのです。考えてみてください。仕事に誇りを持ち、院長や仲間から正当に評価され、イキイキと働くスタッフ。そのポジティブなエネルギーは、言葉遣いや表情、立ち居振る舞いの端々に現れ、自然と患者さんに伝わります。患者さんは、そうした医院の温かい雰囲気を敏感に感じ取り、「この医院なら安心して任せられる」という信頼を寄せるのです。
つまり、「スタッフ満足度の向上」→「サービスの質向上」→「患者満足度の向上」→「医院の業績向上」→「待遇改善などによるスタッフへの還元」→「さらなるスタッフ満足度の向上」という、幸福の好循環(スパイラルアップ)が生まれます。この循環を意図的に創り出すことこそが、経営者の最も重要な仕事の一つと言えるでしょう。

2. 患者満足度を高める「3つの実践」
幸福の好循環を生み出すために、まずは患者満足度を高める具体的なアクションから始めましょう。ポイントは「期待を超える」体験をいかにデザインするかです。
① 徹底したカウンセリング体制 多くの患者さんは、痛みや不安だけでなく、「何をされるか分からない」という恐怖を抱えています。治療に入る前に、個室のカウンセリングルームで最低でも30分は時間を確保し、専門のスタッフが患者さんの話をじっくりと伺います。口腔内の現状、考えられる治療法の選択肢、それぞれのメリット・デメリット、費用、期間などを丁寧に説明し、患者さん自身が納得して治療法を選べるようにサポートします。このプロセスが、絶大な信頼関係を築く第一歩です。
② 待ち時間の最小化と快適な空間づくり 予約時間通りに診療が始まらないことは、患者さんにとって大きなストレスです。徹底した予約管理と効率的な診療フローを構築し、待ち時間を限りなくゼロに近づける努力が不可欠です。また、待合室は単なる「待つ場所」ではなく、「リラックスできる空間」と再定義しましょう。清潔感はもちろん、心地よい音楽、質の良い雑誌やウォーターサーバーの設置など、細やかな配慮が医院の評価を大きく左右します。
③ 治療後のフォローアップ体制 治療が終われば、関係も終わりではありません。治療後の経過は順調か、何か困ったことはないか、といった内容を電話やメールで確認する一手間が、患者さんに「大切にされている」という実感を与えます。また、定期検診の重要性を伝え、リコール率を高めることは、患者さんの長期的な口腔健康を守ると同時に、医院経営の安定にも繋がります。
3. スタッフ満足度を高める「3つの仕組み」
次に、好循環のエンジンとなるスタッフの満足度を高める仕組みづくりです。院長の想いだけでは組織は動きません。公平で、誰もが成長を実感できる「仕組み」が必要です。
① 公平で透明性のある評価制度 「頑張っても頑張らなくても給料が同じ」では、スタッフのモチベーションは上がりません。スキル、知識、患者さんへの貢献度、チームへの協調性など、多角的な評価項目を設けた人事評価制度を導入し、その結果を給与や賞与に明確に連動させます。評価基準やプロセスを全スタッフに公開し、誰もが納得できる透明性を担保することが重要です。
② 成長を支援する教育・研修制度 スタッフの「成長したい」という意欲に応えることは、経営者の重要な責務です。新人研修はもちろん、定期的な院内勉強会の開催、外部セミナーへの参加費補助など、スキルアップとキャリアアップを積極的に支援する制度を整えます。成長を実感できる環境は、スタッフの定着率を飛躍的に高めます。
③ 働きやすい環境づくり 社会保険の完備や法定通りの有給休暇取得は、もはや当たり前です。その上で、残業時間の削減、育児中のスタッフへの時短勤務制度、充実した福利厚生(健康診断、慰安旅行など)といった、スタッフの人生に寄り添う配慮が求められます。私の法人では、スタッフが安心して長く働ける環境づくりに最も力を入れています。

4. 両者を繋ぐ「理念共有」の重要性
そして、患者満足とスタッフ満足という2つの歯車を噛み合わせ、力強く回転させる潤滑油の役割を果たすのが「理念の共有」です。
「私たちは、何のためにこの仕事をしているのか?」「どのような医療を通じて、患者さんと社会に貢献したいのか?」
院長が持つこの熱い想い、つまり医院のビジョンやミッションを、具体的な言葉にしてスタッフに伝え続けることが不可欠です。毎日の朝礼や定期的なミーティングで繰り返し語り、医院の全ての活動がその理念に基づいていることを示すことで、スタッフは日々の業務の意味を理解し、誇りを持つようになります。患者さんからいただいた感謝の言葉を全員で共有するのも良いでしょう。「患者さんの笑顔」が「スタッフのやりがい」となり、それがさらなる「患者満足」を生み出す。この理想的な循環は、強固な理念共有なくしては成り立ちません。
まとめ
「患者もスタッフも満足する歯科医院」を創ることは、決して夢物語ではありません。それは、経営者が両者の関係性を正しく理解し、双方の満足度を高めるための具体的な「仕組み」と「文化」を、意図的に構築していくことで実現可能な、極めて論理的な経営目標です。
患者満足とスタッフ満足は、医院の成長を支える両輪です。どちらか一方の回転が滞れば、医院はまっすぐ前に進むことはできません。本日ご紹介した「3つの実践」と「3つの仕組み」、そしてそれらを繋ぐ「理念共有」をヒントに、まずはご自身の医院で、明日から始められる小さな一歩を踏み出してみてください。
例えば、スタッフとの1対1の面談の時間を設けてみることや、患者さんからの感謝の声を朝礼で共有することからでも構いません。その小さな行動の積み重ねが、やがて幸福の好循環を生み出し、誰からも愛され、選ばれる医院を創り上げていくのです。先生の医院が、患者さんとスタッフ、双方の笑顔で溢れる場所になることを、心から願っています。
著者: 福原 隆久(ふくはら たかひさ)
現役歯科医師・医療法人理事長。6つの分院を展開し、現場を知り尽くした実業家ドクターとして、業界全体の底上げのためにノウハウを公開している。
